ベンチャー

未来を見つめると、
目の前の仕事も楽しくなる。

きよとうファーム

代表取締役 平泉繁

THEME「挑戦」

 葡萄の出荷シーズンの真っ只中、きよとう果樹園は活気に溢れ、採れたての葡萄を箱詰めする社員たちの姿があった。「まだできて2年目の会社ですが、『社員のこんなことやりたい!』ということにチャレンジしていきたい。日々忙しい中で、そのアイデアも貯めていかないと」。張りのある声と笑顔。昨年、販売部門に特化して法人化した「きよとうファーム」代表の平泉も、忙しそうに作業場を動いていた。

 石灰質な北房エリアで、梨、桃、葡萄の生産を行うきよとう果樹園。地域の有志が集まって出資した農事組合法人「清藤」が1993年に発足。販売はJAだけに頼らず、直売で運営することを目指した挑戦だった。きよとうファームでは、葡萄16種類、桃12種類、梨10種類を生産。果樹の盛んな岡山県内でも差別化を図ろうと、さまざまな品種に付加価値をつけ、果樹園にある直売所の新鮮さを売りに人気を博している。
 5年前には新しい顧客層を獲得すべく、敷地内にカフェをスタート。「多角化したのはいいけど、組織の整備が追いついていかなかった。生産は生産の立場、販売は販売の立場があり、意思決定のやり方も模索しながらだった」と悩ましい問題も抱えていた。長年積み上げてきたものから、新しい挑戦を始めるのは簡単ではない。どうしてもそれまでのやり方や根付いた思考、文化のようなものがあるからだ。それは平泉自身もよく知っている。

 大阪でエンジニアとして働いていた平泉は、25年前に真庭市に移住。「アウトドアが好きで田舎暮らしに憧れていて、田舎の仕事は農業と思い込んでこの世界に飛び込んだ。田舎にはいろいろな宝物がある。それをどう世の中に広めていこうかと考えていたが、日々の忙しさでなかなか目の前の仕事でいっぱいになってしまった」。生産現場に長年いて、清藤の代表を8年も務めた。忙しい日常に染まっていた自分を反省し、未来に向けて動き始めた。

 生産は農事組合法人「清藤」に託し、若い感性と価値観を尊重できる組織づくりを目指し、販売部門を別会社化。平泉は、20代から40代のスタッフが揃う若いメンバーを率い、販売の舵取りを担った。「僕ら年配者も時代に合わせて意識改革が必要なこともある。僕ら世代から見たらこうだと思っても、若い人から見たら違っていたりする。やっぱり人があっての会社。若い人が挑戦しようと思える環境づくりが大切だと思っています」。プレーヤーからこの1年で経営者としての楽しみを感じるようになったという。

 カフェ事業は外部パートナーが運営し、季節感のあるメニューが好評で良い変化も感じている。「お客さんの年齢層もずいぶん若くなった。カフェを知って来る新しいお客さんが、スイーツに使われている葡萄をここで売っているんだと知ってもらえる。いい相乗効果が出ています」。若手の販売スタッフが、果樹生産がピークの農繁期は生産現場に応援に行き、そこで得た果樹の知識をまたお客さんに還元できるという。
 これからの話も、社員同士ですることが増えた。その時に平泉が意識しているのは、若手たちの「やりたい」という気持ちを大事にすること。すると、自分自身も変わってきたのを感じている。

 「みんなで挑戦しようぜと、視点を変えてみたら、大変だけどこれがまた楽しい。仕事となるとピリピリするのが普通かもしれないけど、楽しむことも大事。次はあれがしてみたい、これがしてみたいってアイデアを出し合ってね。これだけ大変なら、終わった後にすごく美味しいお酒が飲めるなぁとみんなで言っているんです」

 毎日忙しいことには変わりない。だが、今、しっかりと未来を見ている。

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