ベンチャー

農業を通して、
みんながハッピーに
なれたらええな。

HAPPY FARM plus R

代表取締役 奥村龍次

THEME「未来」

 農家の生まれでもなく、もともとは農業が近くにあったわけでもなかった。でも、今、その農業で何ができるだろう、どんな未来が描けるだろうかと考える。「今は20代も5人いるし、14人中11人が女性で、それぞれが持ち場で働きやすい環境を作れたらいいなと思っています。農業でやれることは案外多い。他にも、まだまだやりたいことはたくさんある」。奥村は、楽しそうに話す。

 農業とのつながりは、十字屋でメタン発酵消化液(バイオマス)の担当を任されたのがきっかけだった。生ゴミなど一般廃棄物を昔ながらの発酵技術で液肥に変えるのだが、その普及で農業に参入するようになり、次第に見方が変わっていった。ひとえに農業といっても、生産から流通、そして消費者が食べるところまで考えると社会に関わることが多い分野で、ビジネスとしての可能性も感じた。

 2019年に起業し、直後にコロナ禍に直面した。「葉ネギをやろうと思っていたら販売先も変わってしまい、1、2年は事業の方向性もなかなか定まらなかった」が、信念を持ってその時期を耐えた。「液肥は稲作に使い、肥料としては年間3000t使用。液肥で育てたレタスは野菜ソムリエ銀賞を3度獲得したほど、やっぱり良い効果をもたらします。うちでは、現在も圃場の一部に使っているほか、鶏糞を肥料として使ったり、牡蠣殻の石灰を入れたりしながら化学肥料は通常の半分以下しか使いません」。現在は8haで路地栽培。天満屋ストアとの付き合いは年々大きくなっているなど、丁寧に育てられた野菜が徐々に人気を集め始めている。

 手ごたえを感じさせているのは、事業の成長だけではない。「農業の会社に働きに来てくれる人なんておらんと思っていたのに、意外と来てくれるんですよ。収穫してそのまま出荷したり、野菜をカットする作業よりも袋詰め野菜は器用で丁寧な仕事ができる人が多い方がいい」と、女性の方が多い職場となった。奥村が創業時に立てた誓いがある。一つ目は、農業を一つの産業にすること。二つ目は、若い世代につなぐこと。三つ目は、女性が輝く職場作り、であり、スタッフが生き生きと働く姿も印象的だった。

 「それと、限界集落にある農地では、たとえ住んでいなくても若いスタッフたちが畑で仕事をするだけで地域の人も喜んでくれるんです。地域のために、農業ができることがもっとあるのではないかと考えると、やりたいこともどんどん見つかってきました」

 その一つが、農福(農業と福祉)の連携だ。「障がい者雇用を考えています。働いているのになかなか工賃がよくならない現状を知り、ちょっとでも助けてあげられないかと考えるようになりました」。福祉側の視点からではなく、農業側の視点から利益が出る方法を考えられるのは強みで、「暑い寒いはあるけど、自然の中で体を動かして汗をかくことは健康にもいいでしょう」と期待する。
 そして、「どっかから風穴を開けないといけない」と見ているのが教育分野。今も県外からの農業体験を受け入れているが、農業をやるうちに次世代に継承していくことの重要性を感じるようになったからだ。

 「先進国で農業の教育がないのは日本だけ。農業は食に最も近いもの。中学生くらいまでに農業は楽しいということを知ってもらい、やってみたい人を増やしたいですね。高校と連携した6次化や生産者の増加に繋がれば、それもまたビジネスになる。そうやって地域と農業が循環していくのがいいですね。農業は人のつながりを作ることが大事ですから」

 福祉のこと、教育のこと…。農業のことを考えはじめ、その先に、この地域のことが見えてきた。同社のテーマは「野菜×『作る』+『届ける』+『食べる』=HAPPY」。農業を通して幸せを届けたいという信念。その種は、この真庭に少しずつ芽を出している。

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