好きなビールを、
好きな場所から
届けます。
美作ビアワークス
MBW 三浦 弘嗣
挑戦は、勇敢であるべきだが、決して無謀であってはいけない。例えば、起業した場合は、どんなものを、どんな場所で、どんな相手に、どう届けるのか。ちゃんとビジネスが成り立つように勝負することが大事だ。県外でビール醸造の技術を学んだ三浦さんは、独立する場として地元の真庭を選んだ。
「真庭には地ビールがなかったし、独立も視野にはありました。都会に比べて家賃は安いし、一昔前に比べて情報も入りやすく、機械も低コストで揃えられることも大きかったし、何より知らない場所でやるのは怖かったです。だから、やるなら真庭でした」
酪農場を営む家に生まれ、山口大農学部で修士まで進むほど、発酵に夢中になった。発酵でものづくりを学ぼうと、当時真庭市勝山に店があった天然酵母のパン屋「タルマーリー」で働くようになり、同店が鳥取県智頭町でビール醸造を始めてからはそこでビール作りを任された。真庭に戻ったのは3年前、結婚をきっかけに拠点を変えた。
「せっかく身につけたものをポンと捨てたくなかったですね。真庭に帰ってくるときも、通勤可能圏内の鳥取県大山町や岡山県津山市で地ビールを作っている会社で働くという選択肢もあったんですが、いろいろ挑戦できる若いうちに、好きなビールを好きなように自分で作ってみようと思いました」
立ち上げた「美作ビアワークス」では、はちみつ、茶葉、珈琲豆、酒粕などの地元素材を使った4種類のビールが定番商品。それに加え、期間限定商品として真庭で取れる季節の原料を使うという。もも、ピオーネ、りんご、なし、山椒…。日本酒やワインと違ってビールは作る季節を選ばず、1カ月ほどで仕込めるといい、100ℓの試作用タンクが空くたびに旬の素材をいろいろ試してみるのだとか。「同じことをルーティーンでこなすより、より美味しくなるように試行錯誤をするのが好きなタイプ」という三浦さんには、バラエティーに富んだ原料があることも真庭の魅力だった。
「アイデアと技術次第でいくらでもビールが作れます。知り合いから『こんな物があるからビールにしてみない?』と言われることもだんだん増えてきました。農家さんのところに取りにいけば送料もかからないし、ありがたいことに作ったビールをその農園さんが買ってくれることもあって、社内で飲んでもらったり、そこのお客さんにプレゼントされたりしています」
そういうつながりも大事だと日々感じるからこそ、どこで売るかというマーケットも今は「地元中心」と決めている。市内の観光地である湯原温泉が一番の卸し先で、地元商店なども土産物として売り出してくれるという。最近では、量り売りもできる自社工場内の売り場も客足を伸ばしているとか。気軽にペットボトルに入れて買って帰る光景こそ、三浦さんのビールが愛されはじめたという証なのかもしれない。
「地元の原料を使った地ビールというだけで、酒屋さんも売りやすいと思うし、それだけ商売がしやすいんですが、これが市外や県外に出ると話が変わります。地ビールもいたるところにできていますし、知名度を確立している会社が強かったりしますから」
つながりがあることでいえば、ビール作りに使った麦芽のカスを廃棄する際も、実家の酪農場を継いでいる兄が飼料や肥料として引き取ってくれるそう。そういう環境があることもありがたいことだし、真庭に帰ってきて感じたのは、普通に飲む水や何気なく吸う空気がとてもきれいだということ。「普通って重要なんだなって思いました」。生まれ育った町に感謝することが増えた。
「ビール作りは、仕込みのやり方も一緒なようでわずかに違うし、年によって気候も、できた農作物も違う。発酵も完全に言うことを聞いてくれるわけじゃないです。だから、ビール作りは楽しい。今は、地元で始められて良かったと思っていますし、細く長くでも出来るだけ続けていきたいと思っています。作ったからには地元で飲んでもらいたいし、真庭の良さを知ってもらうために、地ビールを通して伝えられる役割にもなれたらいいなと思っています」
これからも、好きなビールを、好きな場所で届けていく。