ベンチャー

価値は自分たちで
つくっていけるんじゃないかな。

木工房もものたね

元井 哲也 元井 真由美

THEME「価値」

 「初めまして、木工房もものたねの元井です」
真庭市種で木工を生業としている元井さんを訪ねると、名刺交換から驚いた。出された名刺には夫婦の名前が並んでいる。「家族経営って大変なイメージを持っていたけど、主人とやっていると楽しい。夫婦で仕事をするこういうやり方もあると知りました」と真由美さん。仲よさそうな二人を見ていると、そういうスタイルもいいなと思えた。

夫婦連名の名刺も、木工も、哲也さんの父譲り。
「小さい時から山には連れて行ってもらっていたけど、趣味をそのまま仕事にしてしまう父でした」。兵庫県西宮市から脱サラして家具屋をやるために真庭市へ移住。そんな父の背中を見て育った。哲也さんは大学を卒業した後、車の営業、司法書士の勉強、養鶏場と仕事を変えたが、父と同じ木工を始めた。
「子どもが生まれ、とにかく価値観が変わりました。食べるものや持つものが気になりだして、おもちゃも安心安全のものを作ってあげたいと思い、初めて木で作り始めました。木のおもちゃなら他にもほしい人もいるだろうし、親父が使っていた機械や木材のストックもある。これはやらないともったいないと思いました」

木工を始めると、林業が盛んな真庭にいることの価値も見えてきた。山主や林業家から珍しい木や良い木が出ると連絡が入り、山に引き取りに行くのが日常。資材置き場には地元産の木材がずらりと並び、目的に合わせて選んで使うという。これまでビール醸造所の栓抜き、ロックグラス、アロマオイルのディフューザーなど、多様なオーダーに応えてきた。
「木はやればやるほど奥が深いし、興味が尽きません」と話す哲也さん。
「とにかく勉強熱心で真面目な性格。それが今の仕事に向いていたと思う」と真由美さんがいうように、哲也さんはとにかく学びに貪欲。基本的に独学だが、酒造会社から贈答用の木箱を頼まれれば仏壇彫師を訪ねるなど、地元の職人を頼って教えてもらいにいく。「後継者不足もあるのか、真庭にいることの仲間意識か、ありがたいことに教えていただけて。皆さんのお力でできたものなんです」。その素直さと人懐っこい笑顔が、人を動かすのかもしれない。

 隣県の鳥取県出身で、地元で看護師として働いていた真由美さんも、医療現場からものづくりを一緒にするようになった。環境が変われば、価値観も変わる。
「昔は仕事をして、お金を稼いで一軒家を建て、老後に備えて貯金するという安定志向のストーリーを描いていました。それが岡山に来て、主人といるようになって、誰とどんな風に過ごすかが大事なんだなと思いました。今は家族でいること、今楽しいと思うことをやること、楽しみながら働くことの三つを大事にしています」

取材中もいつも寄り添うように笑顔の二人だが、とにかく何に対しても柔軟なのだ。「木工だけでなく、副業で今もたまに移動販売の焼き鳥屋をやるんです。夜中に一緒に鶏肉に串を刺したりしていると、夫婦でこんな風に働くのもあるんだなぁって思うんですよね」と真由美さん。あるマルシェイベントでは、午前中に焼き鳥屋をやり、午後から木工のワークショップを開いたとか。「こうじゃなきゃいけない」と決めつけるのではなく、働き方も生き方もやりたいことをやるための余白を置き、そこを柔軟に夫婦で楽しんでいる。二人の笑顔の理由がわかった気がした。

ものづくりでは、バイタリティーと探究心でつながりを広げながらカタチにしていく哲也さんと、細かく丁寧な仕上げが得意な真由美さん。お互いに得意なことで助け合うのも、自分たちらしいと感じているという。
「僕らは“ノンスタイル木工”なんです。お客さんに木のある暮らしを提供できれば形にこだわらなくてもいいかなと思っています。無理せず、二人でやれることをやっていきたいですね。そうそう、最近はいつか旅行をしながら木工のワークショップをして全国を周りたくて、トレーラーを買ったんですよ」
二人で楽しむこと、それこそ二人が見つけた価値。真庭はそれができる場所だった。

木工房もものたね webサイト