ローカル

選ばれない努力が、
選ばれる価値になる。

わんこあん

代表取締役 太田摩紀

THEME「挑戦」

 湯原温泉では約10年ぶりの新規開業で、特色のあるサービスを提供する宿が話題を呼んでいる。2017年にオープンしたのが、「わんことわんこの家族のための宿」をテーマにした「わんこあん」。「雇用も生まれ、地元食材も使えるのが旅館。自分が好きなことで、この地域に貢献したいという思いがあって、旅館らしくないやり方でいろいろと新しい挑戦をしています」と快活に話すのは、パッと明るいオレンジの髪色が似合う太田。固定概念を突き破り、伝統ある温泉街に新たな風を吹かしている。

 湯原の旅館生まれの旅館育ち。実家の旅館で働いていたが、ある時、新しい旅館をしてみないかと声がかかって挑戦を決めた。「高級路線とかもあるけど、見合う接客、料理の提供はなかなか難しい。ふと自分がどういうお客様に来ていただけたら嬉しかったかを考えた時に、わんちゃん連れのお客様だったんです」。自身も犬を飼う太田だけに、犬連れでも安心して楽しめる宿を思いついた。

 「主役は、わんちゃん」。そのサービスは徹底している。食事は犬が留守番しないようにと、テーブルには一緒に食べられるように専用椅子も設置。大浴場がなく、すべての部屋に露天風呂をつけたのは、その時間に留守番させないためだという。「飼い主がお風呂に入っているのも見に来て『いない間にこんなことしていたの?』って目で見てくるんですね。わんちゃんとずっといられることって普段なかなかできないこと。ここでは、ゆっくりその時間を過ごしていただきたいんです」。そのひとときを満喫してもらうため、最初はOKにしていた子供の宿泊をNGにしたという徹底ぶりだ。

 だからこそ、いろいろな性格の犬に対して親しみを持てるように、6人いるスタッフは全員犬を飼ったことのある犬好き。平均年齢は20代中盤と若い。「若い人にとっても働きたいと思われる旅館でありたいと思ったし、迎賓館的な高級な宿というよりも温かみのある良い宿にしたかったので、接客経験がなくてもわんちゃんが好きな人に来てもらいたかった」。中には、市外から犬と一緒に引っ越して働くケースも。雇用面でも、思いが共有できるスタッフが集まってくれるという。

 「コロナ禍で2カ月休業したんですね。そういう時って沈みがちで、つまらないじゃないですか。サービス業は黒髪のイメージだけど、髪の色でも変えようとみんな自由にしたら、わんこと同じ色にする子もいて。スタッフが楽しく生き生きと働いている宿だと思っていただきたいです」
 サービス内容やスタッフを含めた宿としての在り方は、どんどんオリジナルなものになっていった。価格帯も1人3万円くらいから週末時は2倍近くに単価をあげ、顧客層はどんどん絞られている。

 「さまざま宿もあり、情報も溢れているし、お客さんもすごく選ぶようになっている。その時代に大事なことは『選ばれない努力』。それは、お客様と宿側の思いのミスマッチがないように、宿のこだわりを保ち、それを伝えていくこと。そうすることで、誰にでも選ばれる宿ではなく、思いを共感してくださる方にちゃんと選ばれるようになると思っています」。昨年にはドッグランも新設し、今後はドッグカフェも開く計画もある。「前に来た時より変わったねと言ってもらいたいし、常に上昇していきたいです」と意気込む。

 「うちの子も結構暴れん坊だから(笑)。旅行に行ったらもう大変なんです。そういうわんちゃんでも、わんこあんだから落ち着ける、安心できると思っていただるといいなぁ。そうしたらわんちゃん好きな人たちの旅行へのハードルを下げられるんじゃないかなと思っています」

 旭川に面した自然の景観が美しい場所で、飼い主もわんちゃんも本当に楽しい時間を過ごせる宿。大事なのは、自分たちも自分たちらしく楽しむこと。その気持ちが、どんどん未来を広げてゆく。

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