ローカル

市場じゃなくて、
業界が盛り上がること。
それが木の価値になる。

真庭木材市売

代表取締役 山下薫

THEME「価値」

 「山が一番の資源です」。開口一番、山下は言った。それは、真庭市の一大産業を木材市場として長年支えてきた誇りを表すかのようだった。真庭木材市売(以下、市売)の年間取扱量は8万m3。岡山県内の総量の4分の1に当たり、4tトラックで数えると1万6千台にもなる。原木市場は、山主の木を林業家が伐採して集まってくる場であり、製材業者が目当ての木材を買い求める場。「山と製材所をつなぐ扇の要のようなもの。だから、うちだけが儲かったらいけない。山主も買い手もどちらにも良い具合にしてあげないといけない」。その一心で、山の価値を作ってきた。

 機械化が進み、若い人でも林業で起業する人が増えたという。その若手林業家たちにとっても、市売は頼れる存在だ。「この山ならなんぼくらいで買ったらいいよとか、一緒に見に行ってアドバイスしてあげる。若い人は積極的な人が多くてどんどん聞いてきますよ」と、嬉しそうだ。時代の変化に合わせ、市売もやり方を柔軟に変えている。
「5、6年前からはうちも山を買ってきました。昔は100%委託で木を持ってきてくれていたけど、待っているだけでは木が集まらないことも出てきた。私たちとしても安定的に材を確保することが信頼にもつながりますから。そこの伐採を若手業者に委託すれば、そこにも仕事が生まれるでしょう」

 真庭の木の価値をつくる一端を担ってきた。節がある木や丸太といった並材の値段は大抵決まっているが、大径木は使い方によって価値が決まるという。「例えば、4mに切るか、8mに切るかでも違う。そういうのがわかるのも製材所とのつながりがある私たちだからできることで、製材所のニーズは全部頭に入っている。木の価値を最大限に出せるように持っていくのが仕事です」。6年前からは、バイオマス発電所向けにチップの生産と販売を始めた。「低質材でもそれなりの価値が生まれる。そうなると木も捨てるところがないでしょう」と、月400tほど出荷している。

 市売で働く醍醐味の一つが、市場に集まってきた木材を分別して10日に一度開かれる競りだ。その場を取り仕切る競り子ができるようになって市場の人間として初めて一人前と言われ、競り子の技量ひとつで値段を左右する。市売では社員20人のうち山下も含めて8人の競り子がいる。「10のものが5になることも、15にも20にもなることもある。流れるように喋って、お客さんと駆け引きをせんといかん。雰囲気を見ながらね。預かっている木を高く売って感謝されるのは一番の面白みなんですわ」と、勝負師の顔を覗かせた。
 市売を引っ張るリーダーは、市場を開いている使命感や責任感を言葉の端々ににじませる。真庭市内にある30もの製材所の特徴も、時代の変化とともに変わってきた。

「昔はどこも小さいのから大きいのまでいろいろな木を引いていたが、今は分業が進んでいてそれに合わせて分別している。全国でもこれだけ細かく分別するのは真庭くらいじゃないか。それも直材なら直材だけきちっと揃える。ガバッと良いのも悪いのもまとめたら楽だけど、それじゃ信頼は長続きしませんから」

 すでに決まっているものでもなければ、勝手につくものでもなく、価値は作るもの。夕暮れが迫り、美しい光の中、山々を背に積まれた木材が並ぶ。市売のいつもの風景は、圧巻だった。

真庭木材市売株式会社 webサイト