小さなビジョンが、
大きなビジョンを
支えているんだ。
十字屋グループ
代表 牧 一穂
牧一穂の話は、止まらない。ただ、決して長いとは感じさせない。そこには語らんとする信念があるからだろう。大正時代から真庭市で事業を行ってきた十字屋グループの4代目は、熱く、一つのビジョンを描いている。「この地域が残るためにうちが必要とされる会社になる。だから、うちのビジョンは真庭市のビジョンであり、そしてそれは持続可能な社会を作ること」。社業の軸は、地域との「共生」だ。
創業時は米屋から始まり、その後、し尿や汚泥の処理、清掃業といった地域の仕事を担ってきた。20年ほど前に東京から後継者として真庭に帰った牧は、会社の未来に危機感を覚えたという。「人口増加モデルの社会は終わる。地域に必要とされていなきゃいけない。夫は妻に必要とされるから夫であり、妻は夫に必要とされるから妻である。だったら私は真庭という地域の妻にならないといけないと思った」。牧は考え、動いた。必要だったのは妻が家庭の問題を解決するように、真庭の問題を見つけて解決していくことだった。
事業内容は、すべてその〝答え〟と言える。一軒一軒の自宅を訪問し、家の修繕に屋根に登ろうとする高齢者を見つけると、サポートする「なんでもし隊」。その延長である建設業。高齢者の問題を解決して行く中で、直面したのはいかに地域を持続可能なものにしていくかだった。循環型の事業を次々に展開するなか、重点を置いたのは、食とコミュニティーの回復だった。
食品廃棄物やし尿・浄化槽汚泥を活用して得るバイオガスを肥料に変え、その肥料を使って農産物を育成。それを販売して外貨を稼ぐため、ECサイト立ち上げ、また大阪と滋賀に直売所の「真庭市場」を運営する。その「食」の良いサイクルに高齢者と子育て世代を加え、世代間をつなぐ輪を作るために4年前に「真庭あぐりガーデンプロジェクト」をNPO法人で設立。
「捨てるはずだった野菜を加工する工場を高齢者が働く場とし、そこでできた体に良いものを子育て中のお母さんが買って子供に食べさせる。農業体験もしており、いずれは学校給食につなげる構想もあるという。高齢者と若い世代と関わる場所を作ることができ、これは全部絵になるなぁと思った」と、うなづく顔に笑みがこぼれる。
自分自身の変化も、経営姿勢に大きく影響した。「イノシシのような人」という祖父のDNAを受け継いだと自負するほど「一度こうと決めたら絶対にやるタイプ」。強いリーダーシップで引っ張ったが5年ほど前に考え方が変わってきたという。「自分の力でやろうとするけど一人じゃ何もできない。白黒つけないと納得いかなかったがよくよく考えると自分が正義とは言えない。自分の自我を捨て、連携しないと最善が尽くせない、このままじゃいけないと思った」と振り返る。
「一見綺麗でしょ。でもそれを形にするのは至難の技ですよ」。ゴミを使った循環に住民参加を促していく。それは十字屋の想いが一方通行では成り立たず、市民の協力なしには描けない絵(ビジョン)なのだ。平坦な道でないことは知っているが、真庭あぐりガーデンは大勢の人で賑わい、そこには笑顔が広がっている。徐々にではあるが、循環のサイクルが回り始めた。
「持続可能な社会を目指す、するとうちには小さなビジョン(目標)が山ほどできる」。資源と人。地域にあるものを使い、繋げる。そのビジョンが、真庭の未来という大きなキャンバスを彩っていく。