背伸びはしないけど、
まっすぐ進むよ。
山下木材株式会社
代表取締役 山下 豊
木材価格の下落、ニーズの変化、設備投資、そして後継者問題…。地方の製材業を取り巻く環境は、決して楽観視できるものではない。それでも、山下には譲れないものがある。「安くして100本のうち数本使えない木があるんじゃなくて、100本あったら100本使えるものにする。多少高くても山下さんのところなら間違いないと言ってもらえる。これ(品質)がうちの社是みたいなものだから」。穏やかな笑みに、積み重ねた信頼へのプライドがにじむ。
「ピークは昭和63年ごろだった」。今の倍ほどの売り上げを記録したという。当時より生産量は増えたが、それ以上に木材の価格は下がった。スギの価格は1/3になり、ヒノキの6m通し柱用丸太は10万円だったのが3万に。役柱用丸太は1立米あたり40万していたのが、今は高くても5万だ。業界全体の流れとはいえ、厳しい道を歩んできた。その中で、軸にしたのが並材。「住宅でいえば隠れる材。使ってもらいやすいように、乾燥や加工の制度を高めて間違いのない並材を作る。それが時節にあったやり方だった」と振り返る。
闇雲に生産数をあげれば良いという問題でもない。何よりこだわっているのが質で、「とにかく市場に行けば一番いいやつしか買わないようにしている」と胸を張る。岡山県はヒノキの生産量が日本一で、他の地域に比べてその品質には自信を持っており、全国で他地域と勝負している。今は新規の販路開拓もしていないという。「忙しい時に営業すれば売れるけど生産工場がパンクするし、暇な時に営業すれば買い叩かれる」と、一度にできる量を見ながらバランスを取っている。生産ペースをあげるには新たな機械を導入する投資が必要になり、それも簡単な判断とはならないのだ。それに「あそこは間違いないよと紹介してくださり、お客さんが増えていくこともある」のも、こだわりの仕事の賜物だ。
時代の潮流はなお厳しい。台頭する集成材やCLTを扱うには今よりも原料となる木材にお金がかかり、現状でいえば製材した柱をそのまま使うのがベストだという。「しかし、枝打ちをしっかりして節のない柱を評価してもらえるような使われ方が減ってきている。評価してもらえたら丸太の単価も上がってくるが…」ともどかしそうだ。「和室が減ってきているし、人口減少で必要とされる量も減る。昔は200万戸近い新設住宅があったが、やがて70〜80万戸になる」と分析。非住宅部門の木材も検討していかないといけないといい、「いかに対応し、要求された品物を提供できるか。品質が担保されるものでないといけない」と冷静に見る。
大小30はある真庭の製材所には、後継者問題や人材不足という問題も降りかかる。68歳になる山下は従兄弟にあたる23歳下の常務らがいるが、「この地域でも半分以上かな…。私らの年齢でも後継者がいないところもあるし、そこそこ儲かっていても辞めていくところもある。吸収合併してもらえる会社ならまだいいけど、高齢化や設備の老朽化を抱える会社はどうなるのか…」と業界の現状を嘆く。来春は1人の入社を予定しているが、この売り手市場の時代に若い社員を確保していくのも当然楽ではない。
課題は多い。でも、山下はぶれないのだろう。「うちの木材を使ってみてよかったという人が多い。品質のところだけは心がけてきたから」。その姿勢を崩さず、背伸びせず、まっすぐに進むつもりだ。