当たり前を、
続けてゆくために。

ジェラート醍醐桜
商品開発 酪農担当 山本英伸/商品開発 酪農担当 山本英伸
「毎日朝晩2回は乳を搾らないといけないので、休むことはできません。小さい時から家族旅行もないし、遊びといったらトラクターに乗るか、田んぼに行くこと。そこで楽しみは自分で見つけるし、嫌だという感情もなかった。それが家族の日常。昔も今も、その当たり前のことをやり続けるだけです」
酪農家である山本英伸さんの「当たり前」に重みを感じた。日本有数のジャージー牛の飼育地域である真庭市で、祖父が酪農を始めた。3代目として引き継ぎ、搾った生乳を使う「ジェラート醍醐桜」を開業。店長を務める姉の藤田佳代さんと共に、生業を続けている。
「継ぐ気はなかったし、親にも継がなくていいと言われ、動物が好きだったのでトリマーの専門学校に進みました。でも、就職を考えた時に、好きな仕事を全力でやっている父の姿が思い浮かんだ。それを経験してみてから自分の道に進むのもいいかなってやってみたんです。やってみたら、おもしろかった。誰にでもできることじゃないなと。やるだけやってそれが評価される仕事。正直しんどいけど、それがおもしろいんです」
健康な牛を育て、おいしい生乳を搾る。そのために、やることはいくらでも出てくる。8ヘクタールの田んぼで牧草を育て、その畦道の草も美しく刈り上げる。「これは売上にはならんけど、その方が気持ちいいから(笑)」。牛舎をきれいに保つために掃除も一生懸命にする。そうした一つ一つの手間をかけ、おいしい生乳が出来上がる。
「うちは45頭くらいで規模は小さい方。だからこそ、一頭一頭を大事にできるのが強み。最後はおばあちゃんになるまで健康でいてもらいたいと思って世話をしています。でも、おいしい生乳を作るだけじゃ、これからの時代は厳しい。このおもしろい仕事を続けていくには何かしなきゃ、と思っていました」目をつけたのが、ジェラートだった。
学生時代にカフェをしたいという先輩を手伝ったことから乳製品に興味を持ち始め、模索していた。設備投資し、作り方も覚えて店を開いたが、どうもしっくりこなかった。「これで食っていこうとしているのに、自分がどれだけのものを作れているのか不安だった。自分が今いる場所を知るために、本場を知りたかった」と、本場イタリアへ渡った。「向こうでは、ジェラートは文化だった。人々は地域の果実や農産物に誇りを持ち、それを使って作っている。『あぁ、そうだよな』と確信しました。真庭や岡山の地元の特産に目が向くようになり、ジェラートを通してそういうものに光が当てられると思いました」
ジェラート作りに挑戦する英伸さんを、同じくUターンで地元に戻った佳代さんが店長として支えた。ぶどうや桃といったフルーツを中心に始め、今では23種類にまで増加。勝山地区にある御前酒蔵元「辻本店」の酒粕にあんこを合わせた「酒粕あん」や、吉地区の住民組織・吉縁起村協議会が生産するサツマイモの葉を使った「すいおう」など、地域に密着した商品開発を進めてきた。
「最初は自分たちが食べたいと思うものを作っていたら、岡山県内からいろんな声がかかるようになりました。やっぱり近いところから声をかけてもらうと、やろうという気持ちになりますね。年々増えて大変だけど、どれもそれぞれ思いがあって作っています」牧場直送の生乳と地元食材を掛け合わせた真庭のジェラートは、広い世界で評価をされるようになってゆく。2019年には日本選手権で3位に輝くと、2021年には世界大会でアジア&オーストラリア賞を獲得。その味を求め、近所の人だけでなく、ここを目当てにわざわざ遠方から訪れる人もいる。
「英伸とは真逆のタイプで、私はできるだけ何もやりたくないタイプ(笑)。いつも英伸がやりたいと言い出して、手伝うようになる。世界大会の時に、父が怪我をして入院したことがあったんです。生まれて初めて父が家にいないのを見たのがこの入院で、まぁ、大変でした。でも、止まるわけにはいかないじゃないですか。やらんといけんことはやらんといけんし、やるならちゃんとやりたいって思うし」(佳代さん)
これを機に、姉がジェラート、弟は酪農に専念するようになった。仕事の相談はほとんどしない。「同じ親に育てられたので、基本的な善悪の考えは一緒だと思っていますから」。家族の生業を姉弟が補い合って続けてきた。気づけば、ジェラートを通してお客さんや取引先の農家さんなど、随分と地域とのつながりは広がった。同じことの繰り返しではない。状況を受け入れ、日々の小さな挑戦から、時には大きな決断まで、いろんなことが重なってできる。大変だけど、おもしろい。そんな「当たり前」をこれからも続けていく。








