ローカル

これからは
木材の時代だよ、
きっと。

銘建工業株式会社

代表取締役社長 中島 浩一郎

THEME「挑戦」

 「切り口を変える」。一番大切にしている考え方なのだろう。中島は取材中、その言葉を何度も口にした。人口わずか4万5千人の真庭市にあって、260億(2018年実績)という売り上げを誇る銘建工業。集成材やCLTは今や全国トップの生産量を誇り、バイオマス発電では地域のエネルギー供給を変えた。切り口を変えるとは、つまり視点を変えること。そして、それに挑戦すること。そうすることでビジネスやまちづくりで、何度も突破口を切り開いて来た。

 「あそこに写真があるでしょう」と指差した先に、一枚の写真が飾られていた。先代社長が立つ後ろには「日本一の集成材をつくろう」の文字がある。1970年、初めて集成材用のプレス機を導入した。「実は60年代に先に始めていた会社があり、2番手以降で始めた。切り口が違うところでやったから生き残れた」。手間がかかることだが、木材の製材から乾燥まで一貫して自社でやることで道をつくった。中島はその頃に入社。木材が国産だと安定して入ってこないことから、アメリカやカナダといった外国産を輸入し始めた。「アメリカ西海岸のアラスカの木からカリフォルニアの木まで、20種類くらいは扱った。それだけ個体差があって、どうやって乾燥させるか。いろんなことが勉強になった」と振り返る。

 近年では、日本でいち早くCLTの取り組みを始めた。CLTはひき板を並べた層を、直交するように重ねて作る構造用材。「当時、スギをどう使おうかというところから始まった。多少合板に使われ始めたが、CLTならもっと大量に使えると思った」と中島。ロンドンなどで高層建築に使われているのを見て、「軽く、強い」木材として近い将来必ず需要があると確信。「トラックの搬入台数は半分になるし、工事期間も短く、エネルギーも少なくて済む」と自信を持つ。

 新たな素材に着目し、挑戦してきた。その判断軸としてあるのは何か。中島は「お客さんのため、かなぁ…。自分のことは考えず、みなさんに使ってもらえるにはどうしたらいいかを考える。それで新しい価値が提供でき、喜んでもらえたらそれは大変な喜びになる」と語る。

 集成材は、年間32万㎥(2018年実績)と日本一の生産量となった。多くの木材を扱う同社は、同時に多くの木屑も出る。その量、実に1日に160トンだという。しかし、それを余さずに使えているのがバイオマス事業である。ここにも中島の挑戦の歴史がある。エネルギーの大切さを父から叩き込まれていた中島は、アメリカで衝撃を受けたという。「エネルギー分野は大手の電力会社か大企業がやるものだと思っていた。そんなとき、小さな製材所が自家発電をしているのを見て、自分たちでもできるんだと思った」。切り口が変わった瞬間だった。

 1984年に自社の発電所を建設。最初は175キロワットのものだったが、この事業のスタートが後々真庭市の事業にもなっていく。真庭市の全戸の電気代をカバーできるほどの1万キロワットの真庭バイオマス発電所が2015年に稼働。「そんな規模のものが成立するのかと大反対の中だった」が、熱意で押し切ったという。

 リスクもあったかもしれない。でも、積み上げたことが大きなビジネスと地域のエネルギー供給の基盤を生んだ。そこにあるのは、切り口の置き方と、信念を貫く行動力。「30年前から根拠もないけど思っていた。21世紀は循環型社会になる、だから木材の時代が来る、と」

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